講説師匠

8/28
前へ
/28ページ
次へ
希世さんがお二人の朝食を準備されておられる間に先生は服を着替え、取材用に原稿用紙と万年筆を持って戻って来られました。 白井さんと串田さんは先に希世さんが運ばれた珈琲を飲んでおられました。 「わざわざ済まないね…」 先生はにっこりと微笑み、そう仰いました。 「いえ。私も先生の作品は読ませて戴いてます。お会い出来て光栄です」 串田さんは先生に頭を下げておられます。 「私も漱石先生の講義は何度かしか受けた事が無いのですが…」 串田さんの言葉に先生は身を乗り出して、万年筆の蓋を外されました。 串田さんは、年に何度か特別講義を行われている漱石先生の話を聞かれた様です。 しかし、噂通り漱石先生の話は難しく、あまり人気のある講義では無かった様子で、生徒の数は疎らだった様です。 それでも淡々と講義をされる漱石先生は立派だと言っておられました。 やはり生徒の数が少ないと手を抜く先生も多い様でした。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加