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第一章:出逢い
宵羽灯縭は、机の上に飾られた写真に目を向ける。
小学生の灯縭が、大好きな叔父と河原で楽しそうに遊んでいる。
懐かしい、大切な思い出だ。
叔父はとても優しかった。
灯縭は叔父のことが大好きだった。
幼い頃からたくさん遊んでくれて、色々なことを教えてくれた。
思春期に入ってからは友人間でのトラブルや両親との喧嘩、その他些細な悩み事や迷いも全部、叔父に話した。
叔父は灯縭の話を優しく聞いてくれた。
灯縭にとって、叔父の存在は心の拠り所だった。
その叔父が昨日、亡くなった。
飲み込めなかった。
重い病気だったと聞いた。
知らなかった。
いつも笑顔で優しくて、自分は決して弱音を吐かない人だった。
病のことも、誰にも打ち明けてはいなかったようだ。
灯縭たちの住むこの村から、ずっと遠くの病院に通っていたらしい。
叔父の部屋から大量の薬が見つかったため、その事実が明るみに出た。
本当に、隠すのが上手い人だった。
それでも、なぜ気づけなかったのだろうと自責の念が押し寄せる。
「ああ………頭が痛い。体もだるい。……行きたくない。」
場違いに明るく楽しげな、雀の鳴き声が響く。
いつもと何も変わらない穏やかな朝。
叔父が、もうこの世にいないということ以外は。
灯縭はやるせない気持ちのまま、ベッドから起き上がり身支度を整えた。
十七歳の灯縭はいつも通り高校の制服を身に纏う。
襟元に赤いラインが一本入った、黒地のセーラー服だ。
ラインと同じ赤い色のスカーフを胸元で結ぶ。
長い髪は、少し高めの位置で後ろに纏めて一つに結った。
重い足取りで、叔父の葬儀に向かう。
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