第一章:出逢い

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村の葬儀は簡素なものだった。 ついに『最後の別れ』を告げる時間が訪れる。 皆がそれぞれの想いを抱き、棺に向けて祈りを捧げている。 灯縭はその様子を、ぼんやりと眺めていた。 山を少し登ったところにある小さな広場で葬儀を行い、その後は村の皆で棺を墓地に運ぶ。 墓地はこの広場よりさらに山を登ることになるが、ゆるやかな坂道であるため棺を担いで歩いても、さほど大変ではない。 (叔父さん…………) もう本当にさよならなんだ。未だに実感がない。 棺の方へ流れる大人たちから視線を外し、ふと近くの木に目をやると、見慣れない男性が立っていた。 歳は二十代前半くらいか、若く見えるが青い着物を着ているのが目に留まった。髪は黒く、長い。 真っ直ぐに叔父の棺に目を向けている。 伏せた眼差しからは悲しみと、憂いの様な色を感じる。 (見たことない人だな。誰かの親族かな。) この村は住民が全員顔見知りであるほどの、小さな村だ。 しかし、今日のように葬儀や何か大きな行事がある際は遠方にいる親族が多く集まる為、その中には初めて会う人もいる。 (この人も多分、村外から来た人だろう。) その時はその程度の認識で、特に気に留めることはなかった。 もう一度、叔父の棺に視線を戻す。 そろそろ”本当に”お別れらしい。埋葬する場所まで移動するようだ。 何気なく先程の見慣れない男性が立っていた場所に目をやる。 男性の姿はもうどこにもなかった。 周りの大人たちが移動の為、慌ただしくなってきたので灯縭も手伝いに動いた。 この時はもう、男性の事などすっかり忘れてしまっていた。
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