0人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後。
灯縭は学校帰りに花屋に寄った。
いくつか綺麗な花を見繕い、山を登る。叔父の墓参りのためだ。
慣れた速度で獣道を歩く。
葬儀の日に通った道よりも、こちらのほうが近道だからだ。
あと少しで到着する。灯縭は、墓場のすぐ手前にある木の側で足を止めた。
(………線香の匂いがする。)
物音を立てないように木の影から覗いてみると、案の定叔父の墓前に人が立っているのが見えた。
(あ……あの人……!!)
葬儀の日、参列者の中にいた見慣れない男性だった。
相変わらずの着物姿で、静かに叔父を偲んでいるようだ。
灯縭は少し躊躇ったあと、恐る恐る男性の方へ近付いた。
(もし、叔父さんの知り合いなら…挨拶ぐらいしなきゃ……)
ジャリ……と、踏み込んだ地面が音を立てる。
その音に気づき、男性が振り返った。少し驚いた表情をしていたが、灯縭の手元に握られた花束を見て、軽く会釈をする。
「すみません。お祈りの邪魔をしてしまって……」
灯縭は軽く頭を下げた。
「いえ。こちらこそ。……綺麗なお花ですね。」
男性はそう言いながら、墓前から少し離れる。
灯縭に気を遣ってくれたようだ。
伏し目がちな印象や細やかな仕草などから、灯縭はどことなく繊細な雰囲気を持った人だな、と感じた。
「ありがとうございます。……叔父さん、好きだったんです。この花。」
灯縭は墓前に花を供え、静かに手を合わせる。
(叔父さん……どうか…安らかに………)
最初のコメントを投稿しよう!