0人が本棚に入れています
本棚に追加
灯縭は祈りを終え、男性に向き直る。
「申し遅れましたが、私は宵羽灯縭と申します。このお墓は、私の叔父のものなんです。……あなたは、叔父のお知り合いのかたでしょうか。」
男性はにこりと笑い、「はい。彼は私の友人でした。翡雨龍弥と申します。」と答える。
そして「もう随分長い間、彼とは会っていませんでしたが……」と付け加えた。
灯縭は(へぇ……そうなんだ。やっぱり村の人じゃないんだな。)と思った。
「翡雨さん……は、遠くから来られたんですか。」
「ひとつ、隣の町からです。」
言葉で聞くと大した距離は感じないが、この集落はかなり人里から離れた場所にある。
人家のある町まで下りるか、反対側の山を一つ挟んだところにある集落か、人が住める『隣の町』というのは恐らくどちらかだろう。
どちらにしてもここがかなりの山奥であるため、行き来するには結構な時間がかかる。
「では今は村に泊まられているんですか。」
灯縭は気になって聞いてみた。
翡雨は表情を変えず、にこやかに答える。
「ええ、今は。……しばらくはこの村の友人の家に、世話になる予定です。」
(なるほど。
こういうときって何かと疎遠になっていた人たちとの交流とか、よくありそうだもんね。)
灯縭は納得した様子で、叔父の話題に切り替えた。
それからしばらくはたわいの無い会話をしながら、二人で山を下った。
もちろん、今度は獣道ではなく、歩きやすく舗装された山道を。
翡雨と灯縭は思いのほか気が合い、話が途切れることは無かった。
最初のコメントを投稿しよう!