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山を下り、しばらく歩くと神主さんに出会った。
山道から続く長く細い道の道中には、神社がひとつ建っており、その向かいにはだだっ広い田園風景が広がっている。
その神社の前で声を掛けられたのだ。
「おや、灯縭ちゃん。こんばんは。」
気がつくともう空は紅く、夕暮れ時を示している。
「こんばんは。いつもお掃除、ありがとう。」
神主さんは箒を持つ手を止めて「いやいや、日課なもんでね。」と笑って言った。
そして「灯縭ちゃんは、叔父さんとこ行ってたのかい。」と続けた。
「うん。……あ、それでね。こちらのかたがー……」
振り返り、灯縭は言葉を失った。
(あれ。翡雨さん?)
先程まで一緒に歩いていた翡雨の姿が消えていた。
「ん?灯縭ちゃん、どうかしたかの。」
神主さんが不思議そうな表情をしている。
灯縭は少し嫌な予感を覚えつつも、何となく深く考えてはいけないような気がして「ううん、やっぱ何でもない。」と返した。
結局、その日は家に着くまで一度も翡雨と会うことは無かった。
(翡雨さん、先に帰っちゃったのかな。……うーん。)
何となく腑に落ちない気持ちのまま、灯縭は眠りについた。
(明日も、叔父さんのお墓参りに行こう……)
叔父さんに会えば、きっとどんなことが起こっても乗り越えられる。
そんな気がする。
小さい時から、実の両親より可愛がってもらった。
親や友達に話せないような相談事も、何でも話せた。
最も心を許していた。
兄のような存在だった。
弟がいる私は、人に『甘える』ことが苦手で、いつでも自分はしっかりしなきゃいけないと思ってた。
不思議だ。
そんな叔父には、もう会うことが叶わないのだから。
もう一言だって、言葉を交わすことも、あの優しい笑顔を見ることも、永遠に出来ないのだから。
「…………」
静かに、一筋の涙が頬を伝った。
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