0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
序章:悪夢
私は、美しい川が流れる森の中に佇んでいる。
川の水は速くもなく遅くもない、とても穏やかな流れ方をしている。
暫くその美しさに見惚れていた。
気がつけば、対岸に誰かが立っている。
とても懐かしいような、不思議な感覚だ。
よく知っている人物のような……気がする。
「誰だろう…」
不意に、その人物と目が合った。
質素な着物を身に纏った、髪の長い男性だ。
真っ直ぐで透き通るような綺麗なその目に引き込まれる。
同時に、何とも言えない哀しさに襲われる。
(目が離せない。)
一瞬、川の流れが速くなったような気がした。
つい先程まで澄み渡る青い空が広がっていたのに、激しい雨音も聞こえる。
涙が止まらない。私は何も悲しくないはずなのに。
フッと視界が暗転し、私は見慣れたベッドの上で目が覚めた。
全身に嫌な汗をかいている。気分が悪い。
「嫌な夢を見た……」
窓の外から雀のさえずりが聞こえる。
全くいつもと変わらない朝だ。
ただ、一点を除いて。
最初のコメントを投稿しよう!