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皐月
私、山口皐月は明日、結婚する。
相手は岡崎康介さん。
職場結婚だ。
私はとある私立高校で国語の教師をしている。
康介さんは同じ高校で数学の教師をしていて
私の先輩にあたる。
妹の櫻子はこの高校の出身で
康介さんの教え子で
康介さんは櫻子の初恋の人、だった。
妹は寡黙な子で
家でもあまり自分の話をしない。
だから、妹の初恋の相手が康介さんであることは
まったく知らなかった。
私は妹が高校を卒業してから
この高校に赴任したので、この事実を知ったのは
結婚を決めて、両親に挨拶するために
康介さんが家に来た時だった。
「え…岡崎先生…??」
「山口…櫻子か?うわ…びっくりしたよ…!」
びっくりしたように固まる2人を見て
「そっか…櫻子は康介さんの教え子だよね?」
と声をかけると、
目を大きく見開いたまま、櫻子はうん…とうなづいた。
康介さんを見ると、櫻子が私の妹だということに
びっくりしたのか、挨拶の緊張からか、
固まったままだったので、
「上がって、康介さん。どうぞ」
とスリッパを差し出すと、
「あ、う、うん…」とようやく動き出した。
緊張感を保ったままの康介さんの印象は
悪くはなかったようで、私はひと安心した。
せっかく3年ぶりにに康介さんに会ったはずの
櫻子は終始俯いたまま、
目すら合わせようとしなかった。
康介さんも櫻子に話しかけることはなかった。
なんだか不自然によそよそしかった2人だが、
康介さんが帰ってから
櫻子が実は康介さんが初恋の人だったのだと
教えてくれてびっくりした。
「学生の時の話だし、もう昔の話だよ」
そう言って笑う妹の顔は
なぜか少し寂しそうに見えた。
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