第二章 事件

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 大河内は鷹揚にうなずき、店頭のガラスケースを眺めている間宮に声をかけた。 「現場に入ってもらっていいかな?」 「ここは、個人経営とは思えない洒落た店だねえ。こんな色鮮やかなジェリィビーンズまで置いてある」  間宮が感心したように言う。店先には、色とりどりのジェリィビーンズが収められたガラスケースが、店頭を飾るように置かれている。  他にも、ビスケットやクーヘンといった洋菓子から、赤飯や餅菓子のような軽食や和菓子まで、所狭しと並べられていた。  二人は狭い通路を通り、店の奥に入って行く。店と奥を仕切るのは分厚いガラスの引き戸であり、そこを開けると、狭い三畳ほどの畳の部屋があった。 「爺さんは、この畳の部屋で仰向けに倒れていたのだ。首には絞められた痕、爪には彼の皮膚片もあった」  大河内は、事件の概要を間宮に説明する。 「いつもなら、おかみさんが十時前には店を開けて店番をしているのだが、今日は元町に住む娘の家に朝から出かけていて、爺さんがひとりで留守番をしていたらしい。この狭い畳部屋が、爺さんの部屋のようだ」 「旦那は事件当時、どこにいた?」  間宮の問いに、大河内は手帳を見ながら答える。 「菓子屋の主人は、この近くにある工場兼倉庫に行っていた。これは毎朝のことで、リヤカーを引いて朝出かけて、商品を積んで十時には戻ってくる。今日もきっかり十時に帰って来たら、爺さんがここで死んでたわけだ」
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