第二章 事件

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「顔じゃない、姿形(すがたかたち)だよ。あんな大柄の、いい身体をした若い男を見間違えるわけない」  反発するように言う島田に、間宮が答えた。 「残念なことに、神戸の港に行くと、立派な体躯(からだ)沖仲仕(おきなかし)(注:港湾で荷下ろし作業に従事する労働者のこと)がいくらでもいるんですよ。顔に傷のある人も同様です。いくらでもいる」  島田は、はっとなった様子でうなだれた。 「……とまあ、いま私が言った事は全てこじつけですがね。ただ、ご主人が裁判で証言するとなると、先程のように迷われてしまうと採用されないでしょうね」  申し訳なさそうに間宮は言う。 「なんだね、君は一体どう思ってるのだ? 何が言いたいんだ?」  大河内の問いを無視して、間宮は島田に言った。 「最後にもう一つ、お伺いしたいんですが。あなたが見た犯人とおぼしき男と、警察署に拘留されている小達とは服装も違いましたよね」 「何故、それをご存知で? たしかに朝に見た奴は、鳥打帽に黒い外套(マント)で、下に穿いてるのは黒い袴の書生っぽ(しょせっぽ)みたいな格好でしたけど、警察署では、やけにパリッとした洋装でしたよ。紺地のダブルの上下(じょうげ)でね」 「ありがとうございます。いろいろ、ご無礼を申し訳ございませんでした」  間宮は、理髪店にいた人たちにお辞儀して、さっさと店を出て行くので、大河内はあわててついて行く。
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