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「一体、君はあのお嬢さんを見張って、ここでどのくらいの時間を費やしているんだね!」
「見張るとは人聞きが悪いなあ」
間宮は、事務机にうず高く積み上げられた書類の中から新聞を取り、無造作に大河内に投げて寄越した。
「時事の頁の下段、通信欄を見たまえよ」
「なになに。昭和五年十一月二十二日? 昨日の新聞か。『信治父キトクカエレ』『S子連絡待ツJ』……。尋ね人の欄は毎日変わりばえせんなあ。おや、『女子事務員急ギ募集ム』だって? なんとまあ、君の事務所じゃないか! ついに人を雇うのか」
「まあね。全く儲かっていないわけじゃなし。むしろ最近は、依頼が多くて断るのに困るくらいだからね。この不景気に有難いことではあるが」
「なら必要なのは、事務員じゃなくて助手のほうじゃないか?」
「とりあえずは、溜まりに溜まった書類の整理や来客の応対をしてくれる人が必要なんだ。探偵助手を雇うのは、それからでいい」
トントントン、と部屋の外から、木製の扉を叩く音がした。
「どうやら心が決まったようだ」
間宮の声は弾んでいる。
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