第一章 発端

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「本当ですか! 身上書を持参いたしましたが、ご覧にならなくてもよろしいのでしょうか?」  娘はそう言って、かっちりとした革の鞄(ハンドバッグ)から封筒を取り出して、間宮に渡した。 「実はだいぶ前から、ここで貴女の様子を拝見していました」  間宮の言葉に、娘はやや面喰らった様子を見せた。 「貴女の外見、歩き方などで大体のことはわかります。早速ですが、今日から勤務していただくことは出来ますか? ええと……天知光子(あまちみつこ)さんですね」  間宮は彼女から渡された身上書を開き、目を通しながら言う。  天知という娘は、そこでようやく周りを見回す余裕ができたようで、大河内の方を見て会釈した。  よく見ると、彼女はなかなかの美形だ、と大河内は思った。やや厚ぼったいまぶたに覆われた目は切れ長で澄んでおり、真っ直ぐ伸びた高い鼻梁(びりょう)高貴(ノウブル)と言っていい。  間宮は身上書に目を落としたまま、彼女に告げる。 「こちらの男は私の警察官時代の友人で、現役の刑事である大河内平八(おおこうちへいはち)くんです。私に仕事を斡旋してくれたりもする、有難い存在なのです」
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