第二章 事件

1/8

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ

第二章 事件

 間宮は光子に留守を頼み、大河内と連れ立ってビルから外に出た。 「しかし、今日来たばかりの娘さんに留守を預けたりして、随分と信用してるんだね」  大河内が少しだけ心配そうに尋ねると、間宮は笑って答えた。 「別に盗られて困るような物は置いちゃいないからね。現金も、大事な書類も貸金庫に預けてある」 「なるほど。抜かりないな」 「それにね、こう言ってはなんだが、天知君は『いいお家の出』のような気がするのだ。身上書は完璧だし、彼女の着ていたコートを見たかい? 上等な毛織(ウール)だ。だが、あの身のこなしは、下衆(げす)な言い方をすると、やや蓮っ葉(はすっぱ)に見える時もある。不思議な娘さんだ」 「まあ、今は天知さんより小達を探ることに専念してくれたまえ」  二人がそんな会話を交わしながら水道筋まで来てみると、通りの入り口には規制線が張られており、警察関係者が大勢たむろしていた。普段平和な商店街は、物々しい雰囲気に包まれている。 「現場に入っても大丈夫かね?」  大河内が、事件現場の木村菓子店の前に立っていた若い警察官に尋ねた。 「はい、大丈夫であります」  彼は敬礼し、硬い表情で答えた。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加