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「子供を殺しただろう?」
もう秋なのに、背中に氷のように冷たい汗がつーっと流れ落ちるのを感じた。するすると自分の体温が下がっていくのを感じる。
「……何……適当なこと……」
声が震える。上手く喋れているのかよくわからない。
「黙っててあげるよ。その代わり」
松丘は片手を出した。
金――。
その目元は先程のままに、口元だけ歪めて不敵に笑っている。コドモとは思えない。相変わらず、アンバランスな顔だ。
こいつ――。
「お前、公務員より、弁護士より、ヤクザだな」
吐き捨てるように言うと、ようやく松丘は腕を握る力を緩めた。その手をブンブン振り払う。
「言ったろ?言ってないか、アンタには。」
腕を捲ってよく確認する。跡がついてたら大変だ。育ちの悪いこいつとは違って、俺は病院の後継なんだ。血統が違うのだ。
「どんなことをしてでも、今よりマシになるって」
とりあえずの一万円札をポケットにねじこんで、ケイゾクテキなシエンを頼むよ、と薄笑いの松丘は離した手をヒラヒラと振りながら学習室の方向へ戻って行った。
かつん、かつん、と大人みたいな足音が頭の奥深くまで鳴り響く。
わずかな蛍光灯が青白い光を放つ薄暗い通路で、すんなりと背の高いその背中をただただ見送ることしか、もはや全身の力が抜けた牧生にはできなかった。
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