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1 なずな、拾得する。
「これ、松丘のハンカチじゃない?」
筧牧生の言葉にびっくりして、思わずその顔を見る。
取手なずなと筧牧生は生まれた時から家がご近所のいわゆる幼馴染で、小学六年生となった今でも一緒に帰ることがあるくらいだ。(隣町で子供が殺される事件が起きたことをきっかけに一人で帰らず、複数人で帰ることが推奨されているので、最近はますます増えた)
牧生は、周りの男子がたけのこみたいににょきにょき背丈を伸ばす中、未だその辺の女子より華奢であり、同じく伸び悩むなずなと体格も似通っている。
サラサラの、陽に透けると茶色く見える、赤ちゃんみたいな細い髪の毛も、おおよそ汗臭くて泥臭い、ゲームとサッカーの話ばかりしている他の男子それとは縁遠い。
運動はあまり得意ではないけど、勉強が得意な牧生は本を読むのが好きだった。
それに付き合っているうちに、勉強も運動もそれほど得意ではないなずなも読書を好むようになった。
お互いに好きなのはやはり探偵小説で、シャーロックホームズやアルセーヌルパンなどの古典からライトノベルのまで、図書室で借りたり姉ちゃんのを回し読みしたり、町の小さな図書館でどちらともなく待ち合わせて会話もせずに黙々と読んだり、牧生とのそういう時間は他の友達と過ごすそれよりなずなに強い強い充足感をもたらすのだ。
小学生に大人気のブランドのラブリセットで買い物してプリクラ撮って、ハンバーガーを食べに行くのとは違うのだ。
それはそれで好きなんだけど。
そんな、せっかくのラブリセが肌にべっとりと貼り付くような暑い暑い8月の午後、学校の図書室から出てすぐの渡り廊下、その脇の茂みに落ちていたハンカチを見て牧生が言ったのだ。
「これ、松丘のハンカチじゃない?」
と。
血だらけの、そのハンカチを手に取って。
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