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まあ、人が通りかかったところで、話しかけるなんて恥ずかしくてできない。とにかく元来た道に戻ろう。そうすれば松丘の家にたどり着く――と歩き出すと、
なずなくらいの背丈の雑草が生い茂る空き地から、ふいに黒い影がにょろりと立ち上がった。
思わずそちらを見る。
――顔ではなくて、その手元を。
なずなは視線を固定したのち、目を見開いてたちまち動けなくなった。念のために言うと、凍ったわけではない。
影がその手に持っていたのは、刃物だった。
ドロドロの、赤黒い、何かはわからない、けれども確実にわかる、血まみれの刃物。
「あ……あ……」
刃物。ドロドロの、血のついた、これは、これはもしかして、もしかしなくても、これは
――猫殺し。
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