三に愛されし男

2/6

23人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
『三武郎は小学生の陸上大会で百メートル走に出場し、三位になりました。  運動音痴な僕は、それを観客席で見守っていました。  散々練習に付き合わされて、それでも足りないと言って朝晩の校庭を走っていたらしいですね。  偶然見かけた誰かが噂していたのを覚えています。  校庭で誰かが走っている。雨の日も風の日も。朝も、夜も。あれ、幽霊だよって。  そんな三武郎が三位になりました。  正直僕は悔しかったです。  いっそのこと、本当に幽霊だったなら。少しでも積み重ねた努力が少なければ、ショックも和らいだだろうって。  そんなことを考えていると表彰式が始まり、僕の胸の鼓動はますます音を立てていきました』  幽霊のくだりは笑ってくれるだろうか。  ここは会場の温度に合わせて調整しようと、印を付けた。  自慢ではないが、結婚式のスピーチは多少慣れている。このくらいのアドリブならなんとかなる。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加