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成哉の部屋
「……なんだよ。いたって普通の部屋じゃんか。つまんね」
幸也の期待に反し、目の前に見える成哉の部屋は何の変哲もない普通の部屋だった。
「てか、お洒落だな……へぇ、綺麗に片付いてるし、これなら俺の掃除も必要ねえな」
八畳ほどの部屋にパソコンと小さな観葉植物の乗ったシンプルなL字型のデスク。引き出しはなく、幾つかの棚に書類と思しき紙などがケースに入って並んで置いてあるだけ。デスクの横にあるアイアンのハンガーラックには見覚えのある服が幾つか掛かっていて、その下の台のカゴには腕時計やアクセサリーが無造作に置かれていた。
「お、ちゃんとこういうの持ってるじゃん」
そこにあった時計やアクセサリーはどれも幸也も知っている高級ブランドの物だった。でも心なしか違和感を抱き、ひとつずつそれらを手にとり繁々と眺める。時計、指輪、ブレスレット……と置かれているそれらは、幸也の知っている限り安くても何十万もする品物だ。それをこんな風に乱雑に置いてあるのには驚いてしまう。そして高級品に間違いはないけど、普段の成哉が身につけている物とは全く違ったタイプの物だった。それに成哉がこれらを身につけているのを一度も見たことがない。
「昔の趣味かな? 普段使ってないなら一個くらい無くなってもわからないよな……」
幸也はシンプルな指輪をひとつ何となく手に取り、ちゃっかりと自分の指に合わせてみた。思いの外ぶかぶかで幸也の指には全くサイズが合わない。「でか……」と呟き少しガッカリしながら指輪を外す。やっぱりここでも違和感があり、幸也はその指輪をじっと見つめた。成哉も幸也と同じような体格で、寧ろ幸也より少し小柄だった。その成哉の指輪にしてはやっぱりサイズが大きすぎると感じ、元の場所に戻そうとカゴを見る。さっきはわからなかったけど、同じデザインの指輪がもう一つあることに気がついた。
「これってもしかして……」
手に取ったもう一つの指輪。シンプルなそれは見るからに「ペアリング」だった。こちらの方は幸也の指にもぴったりなサイズ感。きっとこれが成哉のリングなのだろう。恐る恐る裏の刻印を見てみると、両方に同じ刻印が施されていた。去年の十二月、二つ並ぶイニシャル……たった数ヶ月前に購入したであろうペアリングが、なぜ二つともここに置き去りになっているのか、そんなこと考えなくてもなんとなく幸也にはわかってしまった。
居た堪れない気持ちになりながらそっとリングを元の場所に戻すと、今度はデスク周りを物色し始める。
何か盗めるものを……と思いこの部屋に来たはずが、いつのまにか幸也は成哉のことをもっと知りたいと、その手がかりになるような物を探していた。
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