好き……

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好き……

 いつもの時間に、いつもと変わらず成哉が帰宅する。  幸也は新妻よろしく玄関まで出迎えに行き、成哉の脱ぐジャケットを受取りハンガーにかけ「お帰り」と笑顔を返した。 「ん? 何かあった? 元気ない」  そのままバスルームに向かう後ろ姿を見つめていたら、徐に振り返った成哉が怪訝な顔をして幸也に声をかける。少しドキッとしたものの、ううん、別に……と小さく首を振り嘘をついた。 「そう? ならいいけど。何かあったら遠慮なく言うんだぞ」  成哉は幸也の吐いた嘘など全く気がつく様子もなく「幸也、いつもありがとうね」と労いの言葉をかけながら、そのままバスルームに入っていった。 「ねえ、成哉ってどんな子がタイプなの?」  風呂も済ませ寛いだ様子の成哉に、唐突に聞いた。 「何だよ突然……てか幸也はどんな子がタイプなの?」 「俺? いや、質問を質問で返さないの! いいじゃん、たまにはこういう話したってさ。成哉の浮いた話も聞いてみたいなって思っただけだよ」  遠回しに聞いたつもりが、不自然に思われただろうか。それでもどうしても気になってしまって幸也は聞かずにはいられなかった。「お腹が空いたよ」とテーブルに着く成哉をじとっと見つめ、話が途切れてしまったとガッカリしながら食事の用意をする。そういった話を振ったら、もしかしたら自分から打ち明けてくれるかもしれないと少し期待したけど、成哉はからかい混じりに戯けて見せるだけで全く恋愛の話にはならなかった。  俺は成哉のことを何も知らない──  どうでも良いような些細な情報ならこれまでの付き合いで知っていた。でもそんな事よりもっと成哉の心が知りたくなった。本当はただのコソ泥だという自分の正体は隠したままで何を言ってるんだと心の中で葛藤する。偽っているのは自分の方なのに……もどかしさで泣きたくなった。  穏やかで楽しい時を共に過ごせていたとばかり思っていた。でも今、成哉は一人辛い思いを隠しているのかも知れない……幸也は何とかしてやりたいと思ってしまった。 「やっぱり今日はどうしちゃったの? 幸也何かあった?」 「……ううん、別に。成哉のことをもう少し知りたくなっただけ」 「………… 」  これ以上深入りしても自分のことを話せないのならしょうがなかった。幸也は気持ちを切り替えいつものように明るく振る舞おうと笑顔を浮かべた。 「俺の好きなタイプはね、俺の事を無条件で愛してくれる人。でもそんな人はいないから……俺に優しくしてくれる人はみんな好きだよ。そう、幸也みたいな人が好き」  食事も終わり、突然顔も上げずに話し出す成哉に幸也は片付けていた手が止まる。  あの部屋で見たペアリング。相手のリングの大きさを見て、もしかしたら……と思っていた。成哉の恋愛対象は男だったんだと改めて思い知らされ、返事に困った。  偏見はない。そもそも幸也は今までの恋愛は来るもの拒まずなスタンスで、同性とも付き合ったこともある。だからこそ今の成哉の告白とも取れる言葉は嬉しいと思ってしまった。それと同時に、嘘だらけの今の自分が悲しくなった。 「そっか……」  なんと言ったらいいのかわからない。冗談でそう言ったのかもしれないのに、俺は真面目に捉えてしまったのだろうか、と少し焦る。成哉はそれ以上何も言わず黙って部屋に入ってしまったから、幸也は真意を確認する事はできなかった──
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