夜の訪問者

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夜の訪問者

   明かりひとつない部屋の中で佇む一人の男──  周りをぐるっと見渡すと、ゆっくりと足音も立てずに動き出した。揺ら揺らと風に舞う柔らかなカーテンの隙間。そこから漏れ見える煌びやかな夜景を横目で眺め玄関まで進むと、男は手に持っていたスニーカーをきちんと揃え、そっと置いた。 「さて……と。お邪魔しますよ……」  再度リビングまで戻ると、男は幾分楽しそうに小さく呟く。手慣れた感じにチェストの引き出しを素早く開けて中身の物色を始めた。 「この辺りだと思ったんだけどな。たいしたもんねえな」  スッと音を立てないように引き出しを戻すと、男はため息を吐きキッチンの方へ足を進めた──  早乙女幸也(さおとめ ゆきや)は定職につかずその日暮らしのフリーターをしていた。大学を卒業し、大手企業に就職もした。それでも飽きっぽい性格と、いい加減さが災いして長く勤めることができなかった。つまりは呆気なく「クビ」宣告をされ今に至る。    いつからこんな風になってしまったのだろう……  仕事を辞めてからはアルバイトを続けていた。体は元から丈夫だったのもあり、しばらくは休みもなしにシフトを入れ稼げるだけ稼いでいた。昼間は現場に出て汗を流し、夜になれば身なりを整え歓楽街で酒を呑みながらの楽しい仕事。何の保証も無いけど、頑張ったら頑張った分だけ稼げるのは、単純な自分の性に合っていると思っていた。  これといって趣味もなく、少し料理を楽しむくらい。これもただ単に一人暮らしの生活のためで、外食を続けるより金がかからなくて良いと思ってのこと。週に一度まとめて買い物をし、何となく頭の中で何を作るかを考える。夜の仕事がある時はそこで食事を済ませるから、幸也が作るのは専ら朝食や弁当が多かった。それでも日に日にレパートリーも増え、多少拘りの強い性格も相まって、見栄えも良く中々の料理の腕になっていた。  ある時たまたま見たテレビのニュース番組。そこで見たのはマンションなどの屋上からロープを使って階下へ降り、ベランダから部屋へ忍び込む泥棒の話だった。防犯がテーマでコメンテーターが様々な手口を紹介し注意を促している。幸也はぼんやりとテレビ画面を眺めながら「これなら俺にもできそうだ」と思ってしまった。資格は持たなかったものの、見習いとして鳶の仕事の経験があった幸也は高所も慣れていた。早速次の日手頃なロープを購入し、夜が更けてから試しに自分の部屋のベランダから下へ降りてみた。そして思った通り簡単にできてしまったことに、幸也は今まで感じたことのない興奮を覚えてしまった。  色んなところで試してみたい……そう思って幸也が行動に移すことにさほど時間はかからなかった。
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