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翌日、娘たちからプレゼントをもらった女房は年甲斐もなく大喜びだった。
売場でのハプニングも披露され、ユウジくんは真っ赤になって照れていた。今回の一件で俺も前よりは話がしやすくなったように思う。
「ほら、お父さんもあるでしょ」
「ん? ああ」
三十年近く連れ添ってるんだからいまさら花でもないだろうに。
「お父さん」
娘に急かされ女房に花束を渡す。
「おめでとう」
「もう、お父さん、誕生日じゃないんだからおめでとうじゃなくてありがとうでしょ」
「ああ、そうか」
まわりが一斉に笑った。
つられて俺も笑う。
今年の母の日は家族四人、笑いの絶えない楽しい時間となった。
「由香はいい人と一緒になったわね」
二人が帰ったあと、女房が嬉しそうに言った。
「ああ」
彼なら娘と二人でがんばってくれるだろう。
「あなたもありがとう」
「ん?」
俺からと言って渡した花束は由香が選んだものだ、と言うと女房は違うわよ、と笑った。
「一万円」
「ああ」
女房はすっかりお見通しだったようだ。
おかげでタバコ代が飛んでっちまったと苦笑すると、女房は禁煙するいいきっかけじゃないと笑い返した。なぜか座布団の上にいた猫もニャアと鳴いた。
まあいい。
予定外の出費だったがじゅうぶん元は取れただろう。
いつもの調子で胸ポケットに手をかけたところでタバコを切らしていたことに気がついた。ないと思うと余計に吸いたくなってしまうのが人情だが、先立つものがないのだからしかたがない。
やれやれ。
しばらく禁煙しなきゃならんなあ。
よほど情けない顔をしていたのだろう。
向かいで女房が楽しそうに笑っていた。
―了―
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