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そんなことを思っていると、遠目にある平屋の玄関が静かに開いた。
玄関から出てきたのは、間違いなく小川本人だった。
格子戸の門に佇んでいる私を目に留めた彼は軽く手を挙げると、飛び石のある庭をゆっくりと歩いて来た。
はっきりと顔が分かる距離まで来た彼は、何事もなかったように笑顔を向けてきた。
「津島さん、わざわざ来てくれてありがとう。今しがた、高梨本部長からキミを慶弔見舞で向かわせたと連絡があったんだ」
小川は格子戸の門の鍵を外し「どうぞ」と私を招き入れる。
高梨本部長、彼に連絡を入れてくれたんだ。
社内の慶弔見舞といえども、突然の訪問にならないよう小川にも心配りしているとは……。
どこまでも気が回ると云うか、ほんとうに用意周到な人だと私には思えた。
「通夜にはまだ時間があるから、取り敢えず中へどうぞ。お茶でも飲んでくださいな」
一昨日のような軽い口調でそう言っていたが、小川の横顔は心なしか憔悴したような陰りが感じられた。
「はい。それではお邪魔します」
格子戸の内側で頭を下げる。
小川も軽くお辞儀を返しながら、そっと格子戸を閉めて鍵をかちゃりと掛けた。
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