第一章 『心のドア』

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 小川の後ろについて、庭園を眺めながら歩いた。  格子戸の門からは見えなかったが、平屋の裏には桜の木が見えた。  絢爛たる咲きぶりだったろう桜は、家の主が亡くなったことを悲しむような散りざまを見せていた。  風に乗って、庭園に桜の花びらが舞っている。  この空間は、まるで平安時代のような趣があった。静かな庭園の奥からは澄んだ繊細な水音が聞こえてくる。  まさかこの庭園には水琴窟があるというのか……。  古風な和作りの平屋に格子戸の門。土塀に紅カナメ。庭園には桜が咲き誇り、水琴窟まである。  ここに住んでいた小川のお母様とはいったいどんな人だったのだろう。 ご子息は何を考えているか分からない、顔だけはいい唐変木みたいなやつなのに……。  なんてことを思いながら辺りをきょろきょろしていると、いつの間にか玄関に着いていた。  小川には、私がこの家自体に興味があるということはバレているだろう。  きょろきょろしていた私を見て、目で笑っていたから。  「どうぞ、お上がりください」  小川はいつにもまして丁寧だ。 「ハイホー」と言って私の家に襲撃してきた男と同一人物とは思えない。  彼が開いた玄関扉を見て又、驚いた。  杉か欅か、はたまた栃の木かは分からないが一枚板で作られている玄関扉。  この扉だけで軽く一千万円は超えるだろう。  ほんとにこの家、いや、いったい小川のご先祖、家系は何者なんだろうという、興味と云うか疑問が湧き出ていた。  
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