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おめでとう
「おめでとう」
「……それは、どちらに対しての意味?」
僕の誕生日は一月一日。
お正月の「おめでとう」なのか、誕生日の「おめでとう」なのか……。
まぁ、誕生日なんてよっぽど親しい人にしか教えていないから、だいたいの「おめでとう」は「新年、おめでとう」の意味なんだろうけど。
「ん。どっちもの意味」
目の前の彼を除いては。
彼とは高校時代からの腐れ縁。一度だけ、誕生日のことを愚痴ったことがあるんだけど、彼はそれをずっと覚えていて、毎年、僕を初詣に誘っては「おめでとう」って言ってくれる。
嬉しくない、わけではない。
ただ、ちょっと、心がむずむずする。
恥ずかしいって感じかな……ものすごく、どきどきするんだ。
「これから、どうする?」
「……んー」
お守りを買って、僕たちはふらふらと神社を後にした。
このまま、この道をまっすぐ行けば、駅に着く。きっと、混んでるだろうなぁ……。
「……俺の部屋、来ない?」
「えっ?」
「……ケーキ、買ってあるから」
突然の彼の言葉に、僕は首を傾げる。彼は、ほんの少し気まずそうに視線を泳がせた。
「……お前、誕生日だからケーキ買った。ショートケーキだけど」
「あ、え……ありがとう」
「……別に、もう習慣だし」
「え? 習慣?」
「……っ。聞かなかったことにしろ」
えっ?
どういう意味?
習慣って……まさか、彼、僕のために毎年、け、ケーキを用意して……!?
「あ、あのさ……」
「……好きな奴を家に上げるの、勇気がいったんだよ」
「す、好きって……」
「お、俺は帰るから。嫌なら帰れば良いし、嫌じゃないなら……着いてくれば良いし……」
くるりと背を向けて歩き出す彼の耳は真っ赤だ。
ちょ、ちょっと待ってよ!
嫌なんかじゃ……ないし!
「えいっ!」
「……っ」
僕は彼に駆け寄って、ぎゅっと腕にしがみついた。
彼が立ち止まる。驚いた顔。赤い頬。
「晩御飯は、カレーが良いな」
「……おせちじゃなくて?」
「うん。そういう気分」
牛肉たっぷりのにしてね、って言ったら「贅沢者め」って彼が笑う。いつもの笑顔。ねぇ、スーパーに寄って帰ろうね。
どちらからともなく、手を繋いで歩き出す。
来年の「おめでとう」は、もっと近い距離で聞けそうな気がした。
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