祝福

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 生きているのが辛かった。学校ではいじめられ、家では暴力を振るわれた。居場所も逃げ場所もなかった。だから死ぬことにした。カッターで手首を力の限り強く、深く切った。赤い血が流れ、私は意識を失った。 ***  死んだ生物の命をあの世に導く。それが僕の仕事だ。今回の現場へと向かう。そこには自分の死体を見つめる命がいた。幽体離脱のような状態だ。右手にはカッター、そこから広がる血。自殺だ。僕は命の肩に手を置く。命は驚き、僕を見た。 「君は死んだんだ。僕は君をあの世に導く者だよ」 「本当に死んだんだ……」  彼女は安堵か絶望かわからない表情をしていた。僕はそんな彼女の手を取り 「おめでとう」 と告げた。彼女は首を傾げる。 「死は終わりであり、始まりだよ。君はこれから命の新しい入れ物、体をもらうんだ。新しい人生の始まりだよ。今度は幸せな人生を」 と言って彼女をあの世へ通じるワープに押し込んだ。 「そしてまた次の死に会おうね」
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