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秋が訪れると生徒会長選挙が開かれる。大学受験を迎える三年生から二年生へのバトンタッチ。
そして俺、黒澤克樹は選挙の後援組として奔走中の一年生である。
生徒会室の扉を開くと人の姿はない。新会長候補の清川瑞穂――みずほ先輩は、早めに来ると言っていたはずなのに。
ふと、先輩のペン立てにあった魚肉ソーセージが数本減っているのに気付いた。きっと来ているはずだ。
「みずほ先輩、どこっすかー!」
返事はないが、外では草木の音が騒がしい。
窓を開けて目で探ると、茂みの中にセーラー服の後ろ姿が見えた。
「ここにいたんですね。何してるんすか」
みずほ先輩は、はっと驚いて気まずそうな表情を浮かべた。手には剥いた魚肉ソーセージが握られている。
「かつき君、あなたは何も見てません!」
何かを隠すように体を反転させ手をふりふりする。俺を追い払うなんて明らかに様子がおかしい。
「ニャー!」
その背後から猫の鳴き声が聞こえた。足元から子猫が二匹、顔をのぞかせる。黒と茶色の子猫で、不思議そうな顔で俺を見上げている。
すこし離れたところにおとなの三毛猫がいた。たぶん母猫なのだろう。俺を見て「フーッ!」と露骨に威嚇した。
その様子を見た子猫もそろって俺に牙を見せる。この警戒心の高さは野良猫に違いない。
だが、みずほ先輩にだけは懐いている。それはつまり――。
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