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物心ついた時から、人の顔色を伺って生きてきた。
両親は決して不仲ではなかったが、父の独裁の元、母は常に彼の機嫌を損ねないよう気を使い、彼らの作った枠から外れる私をヒステリックに怒鳴り散らした。
幼い私が『正解』に手を伸ばしているのかを確認するために、大人の表情の変化に敏感になっていったのは無理もないことだろう。
けれど学校に行くようになると、顔色を伺う対象はクラスメイトにまで広がり、自分の言動が彼女たちの意向に沿っているのかを知るために、声のトーンや言葉のニュアンス、顔の筋肉の動きなどの些細な違いを読み取ろうと必死になっていった。
そんな私を周り人たちがいつしか『自分の意見のない、面白味のない人間』と評価し始めたのは仕方のないことなのかもしれない。
自分に価値がないことくらいずっと前からわかっていた。
でも彼らに気づかれ、『無能』の烙印を押された私の絶望は深かった。
耳に届く囁きが細かいガラスの破片のように私の心を突き刺していく。
私は行く先々でその烙印を隠そうと躍起になったが、どこに行っても要領の悪さが人々を煩わせ、苛立たせ、『本当の自分』はいとも簡単に露呈してしまう。
嫌味も、噂話も、罵倒も……。
人との関わりの全てが私を疲弊させ、憔悴させていった。
二十八年生きてきて、私が心安らげる居場所はどこにもない。
降りつもった冷たい人間関係に雁字搦めになり、身動きが取れなくなっていった。
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