105人が本棚に入れています
本棚に追加
知りたいこと
「……それじゃ、あとは一人でがんばってね」
陽向の温もりが残る手首を押さえて、私は言った。
「えっ、聞き込み手伝ってくれないの?」
「話を聞いてあげるって言っただけ。手伝うなんて一言も言ってない」
「ここまで話したんだから、最後まで協力してよ」
「そのくらい、一人でできるでしょ。子どもじゃないんだから。だいたい、どうしてそんなに犯人知りたがってるの? 捕まえてどうするの? 謝罪でもしてもらいたいの?」
多分、それが私の最も知りたいことで、最も知りたくないことだった。
陽向はキスの相手を知ってどうするつもりなんだろう。
相手は陽向が好きだってもう分かっている。
そのあと、陽向はその気持ちにどうやって向き合うつもりでいるのだろうか。
「……泣いていたんだよね、その子」
陽向がポツリと呟いた。そっと隣を見上げると、陽向の真剣な横顔があった。
「俺の顔がちょっと濡れてた。多分、その子の涙だと思うんだ。涙って、嬉しい時には幸せホルモンが出ているからしょっぱくないんだって。でも悔しい時は違う。俺の口元に流れてきた水の味は、試合に負けた時に流した悔し涙の味とそっくりだった」
陽向の瞳はまっすぐに前を向いている。
「なんか、すごく気になるじゃん。泣くほど真剣に悩んでいるんだったらさ、ちゃんと話を聞いてあげたいんだよ。あの子の涙の理由が知りたい」
聞くだけ、なのか。
やっぱり陽向は単純だ。その先のことを何も考えていない。
勝手にキスされた被害者なのに、怒りもしない。
バカだ。
でも、そういうところが陽向らしい。
すると突然、陽向は長い足で一気に私を追い抜き、正面に回り込んで私に頭を下げた。
私はハッと胸を突かれたような思いがした。
最初のコメントを投稿しよう!