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正式な依頼
「お願い。協力して。俺一人じゃどうにもなんない。俺、頭悪いから、その子が嘘ついてても見破れないかもしれない。でもクラスの奴らに話したら面白がって真剣に聞いてくれないかもしれないし、どこかから噂が広まっちゃうかもしれない。部活の仲間は大事なインターハイの前なのに余計な心配かけさせたくない。昴しかいないんだ、こんなこと頼めるの」
私は目の前でサラサラと揺れる陽向の髪を見ていた。
陽向の頭は、撫でるとすごく気持ちがいい。
その手触りを私の指がかすかに覚えている。
最近、この頭をずっと見ていなかったな。
いつの間にかすごく高いところに行っちゃって、私の手が届かないところにあって、もうとても触れないって思い込んでいた。
「……私でいいの?」
陽向の頭が動いて、上目遣いの真剣な瞳が私を捉えた。
「昴しかいないって、最初から言ってるだろ」
キュンと苦しくなる胸の奥から、私はそっと息を吐いた。
やっぱり、逃げられないんだ。
こうなることはもう、私には最初から分かっていたのかもしれない。
今朝、陽向に捕まった時から。
それとも、陽向が「雨」を「飴」だと勘違いしていた頃から。
それとも……私が陽向に恋をした、思い出せないくらいたくさんの瞬間のどこかから──。
今、この時に至ることは運命で決まっていたんだ。
そんな気がする。
「……分かった。仕方ないから最後まで付き合ってあげる」
「本当? やったー! ありがとう、昴!」
陽向が巨大なクマみたいに両手を広げて私を抱きしめようとするから、私は慌てて陽向のアゴを押し返した。
喜びのリアクションが子どもの頃のままのイケメン男子の幼なじみって、しんどい以外の何物でもない。
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