騙し合い

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騙し合い

 ◇ 「あら、何? どうしたの、こんな時間に」  保健室のドアを開けると、机に向かっていた美村先生が振り向き、陽向を見てパッと明るい表情になった。  今日もバッチリメイクで、白衣の下から覗く膝丈のスカートには細めのプリーツが入っている。  3セットあるベッドはまだ早い時間だからなのか、誰も使っていないようだった。うちの高校は平和なようで、イジメや不登校の噂を聞かないから、カウンセリングの仕事もあまりないのかもしれない。  薄いカーテンから突き抜けてきた夏の日差しが、無人のベッドを静かに温めていた。 「先生は今、大丈夫ですか?」 「うん、大丈夫。みんなの健康観察カードのチェックが一通り終わったところ」    誰もいないのは好都合だ。ここに来るまでの間に考えた作戦をさっそく実行することにする。  私は陽向の背中を指でこっそりつついた。陽向はハッとしてから、わざとらしく「イタタタ」とお腹を押さえる。 「すみません、朝からお腹の調子が悪くて」 「えっ? 大丈夫? ベッドに横になって。診てあげるから」  美村先生は聴診器を首にかけて立ち上がった。  陽向は言われた通り、空いているベッドに横になる。 「昨日何か変なものを食べたの?」 「せ……先生からもらったアイス、かな?」 「ウフフ。そういえばあげたよね。陽向くんにだけ特別な味のやつ」  美村先生は楽しそうに笑って、陽向のお腹を服の上からペタペタと触り始める。   「ここ痛い?」 「うーん、分かりません」 「ここは?」 「えーと、アイタタタタ」 「えっ、ここが痛いの? やだ、虫垂炎かな。救急車呼ぼうかしら」 「あっ。やっぱり大丈夫かも」  陽向、演技が下手すぎ。  見ているこっちがハラハラするんですけど。  先生にもすぐに嘘がバレちゃったみたいで、彼女は途中からクスクス笑い出した。 「服の上からじゃよく分かんないな。聴診器当てるからちょっとシャツを脱いでくれる?」 「えっ⁉︎」 「お腹痛くて動けないなら先生が脱がしてあげる♡」  ちょっと、先生やりすぎてない??
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