逆尋問

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逆尋問

 先生が陽向のシャツのボタンに指をかけたから、陽向は本気になって慌てた。 「ちょ、待ってください先生!」 「あー、可愛いな陽向くん! わざわざ嘘ついて私に会いにきたの? 嬉しいなあ♡」 「うっ……だ、ダメです先生! そこ、くすぐったい!」  脇腹をくすぐられて悶絶する陽向。  大人の女性に完全に弄ばれてる。ダメだこりゃ。 「嘘ついてごめんなさい、もう許してくださいっ!」    騙し合いは結局、陽向が負けた。真っ赤な顔で悶える陽向を見られたのは眼福(がんぷく)だったけど、引き換えに逆尋問を受けることになってしまった。  ベッドの上に腰掛けた陽向の正面に立った美村先生が、恐い笑顔で彼を見下ろす。 「で、本当の目的はなんなの?」 「……昨日のアイスのことが聞きたくて。どうして俺のだけチョコのアイスだったのかなって」 「なんだ、そんなこと? 普通に聞けばいいのに」  陽向が黙っていると、美村先生は怪しく微笑んだ。 「私が陽向くんのアイスに何か入れたとでも思ったの?」  陽向は反応良く美村先生を見上げた。  図星だなって、事情を知らない第三者が見ても思う顔つきだ。 「お腹が痛い演技をしたってことは、腹痛になるような原因を探ろうとしたってことでしょ。直接聞きづらかったから嘘をついた。そうでしょ?」 「……はい」 「相手が悪かったわね。養護の先生を仮病で騙そうなんて、十年早いんじゃあないかな?」  ごもっともでした。私も陽向の演技で騙せると思ったことを反省しなくてはいけない。 「景山昴(かげやますばる)さん。あなたもこっち来て、ちゃんと事情を話しなさい」  美村先生は私を見て、冷たい花のような笑顔を見せた。 「私の名前……知っていたんですか?」  景山は私の苗字だ。保健室に世話になったことはないから、先生とちゃんと話すのもほとんど初めてくらいだったのに。 「意外だった? こう見えても私、ちゃんと仕事しているのよ」  先生は赤い唇の端を吊り上げた。
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