美村綾という人

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美村綾という人

「へえーっ。景山さんも怒ることあるんだ? 新発見」  美村先生が、そんな私を揶揄うように目を大きくする。 「いつもクールで真面目な優等生ってイメージだったんだけど。意外ね」  自分のイメージが他人から語られることは滅多にないから恥ずかしかった。  それも、一番言われたくないイメージだ。  クールで真面目で優等生なんて、つまらない人間の代名詞のような言葉じゃないか。 「……陽向がバカなことばかり言うから、です」 「えっ、俺のせい⁉︎」  美村先生は再びクスクス笑った。 「たしかに、陽向くんってバカで愛されるキャラっていうやつだよね。だから一つだけのチョコのアイスは、陽向くんにもらってもらおうと思ったの。陽向くんだったらちょっとオマケしてもみんなから許されそうでしょ」  私はハッと美村先生の整ったまつ毛を見つめた。 「先生は……陽向がお気に入りだからオマケしたんじゃなかったんですね」 「ふふっ。まあ、陽向くんは本当にお気に入りだけどね。でも、好きだからって贔屓したつもりはないの。今の時期は熱中症が心配だから、運動部の様子はどこの部も気にして巡回していてね。バスケ部もその一つっていうだけ」  先生は陽向をじっと見つめて言った。 「屋内だけどバスケは激しいから全国の高校でも死亡者が出ているのよ。死亡者は部活初心者の高一の子が多いけど、高二の子も部活の中心になってくるから、張り切っちゃって自分でも気がつかないくらいよく動くの」  だから心配だったのよ、陽向くんのことが。  美村先生の言葉は、私の心にあった疑いという暗い影を優しく拭い去ってくれた。
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