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次の容疑者
先生と話し込んでいるうちに、最初の休み時間は終わってしまった。
チャイムと共に廊下に出た私たちは、並んで歩きながら話し合う。
「やっぱり美村先生じゃなかったな」
「うん。多分違うね。あの先生だったら睡眠薬なんて小細工なしで堂々とキスすると思う」
陽向はホッとしたような、まだどこかスッキリしないような顔で前を見つめていた。
すると、後ろから「陽向くん!」と声がかかった。
振り返ると、美村先生だ。先生は小走りに近づいてきて、小声で言った。
「さっき睡眠薬を飲まされていたかもって話していたよね」
「はい」
「今、思い出したんだけど、そういえば昨日、あの子が変なことをしていたのを見たような気がするの」
私と陽向は同時に「えっ?」と声を出した。
「あの子って?」
「一年生の瀬戸さん。体育館の前で、ペットボトルの蓋を開けたまましばらくそれを握っていたみたい。薬を入れていたのかどうかは分からないけど、ちょっと気になってね」
美村先生の話を聞いた陽向は、「まさか、瀬戸が……」と呟いた。
次の聞き込みに行く相手はどうやらこれで決まったようだ。
「それから──今ちょっとだけ陽向くんと二人だけで話せる? 一分で済むから」
「ああ、いいですよ」
美村先生は私をチラッと見て「ごめんね」と言った。
「ごめん、昴。先行ってて」
「……うん」
「二時間目が終わったらまた例の場所で」
「了解」
私は後ろ髪を引かれながら自分の教室に戻った。
二人だけで何の話をしているんだろう。
真面目な顔をした美村先生を隠すような陽向の背中が、しばらく私の頭の中に居座っていた。
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