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ただの相棒
「それで……瀬戸里依紗ちゃんって、どんな子?」
二時間目終了後。約束通り屋上前の秘密基地にやってきた陽向に、私は何食わぬ顔を装って尋ねた。
何食わぬ顔って難しいな。
鏡で確認したいけど、ここあるのは屋上へ続く鉄の扉一枚と厚い埃を被った窓ガラスが一枚だけで、それらは到底鏡の役目を果たしてくれそうもなかった。
「言わなかったっけ? 女子バスケ部の後輩だって」
「もっと詳しく、だよ。外見とか、性格とかいろいろ知りたいの」
本当はそんなこと、どうでも良かったんだけど。
私が本当に聞きたかったのは、さっきの休み時間に美村先生と何を話していたのかだ。でも、向こうから話してくれない限り、聞いてはいけないような気がした。事件と関係あることなら話してくれるはずだと思う。そうじゃないならやっぱり触れるべきじゃない。
私はただの相棒だ。
この事件を解決するために陽向と一緒にいるだけだ。
そのことをしっかり弁えないといけない。
じゃないと、陽向のことを何でも知りたがるようになってしまう。
「可愛い子?」
「可愛い……? っていうか、男前な感じだよ。身長が170くらいあって、髪はショートでさっぱりした性格でさ。あと、負けず嫌い。根性があって、何でも一生懸命で──」
陽向は瀬戸さんをだいぶ気に入っているらしい。
自然と溢れ出てくる褒め言葉がキラキラと秘密基地に舞う。
「だから信じられないよ。瀬戸が俺に何かしようとしてたなんてさ」
「ふーん」
「なんだよ、気のない返事して。そっちが聞いてきたくせに」
「ごめんごめん」
なんだか羨ましい──と容疑者にさえなれなかった私が、ちょっぴり拗ねている。
私を誰かに紹介する時も、陽向はこんなふうに良いところばかり話してくれるだろうか。それはちょっと自信がない。
「じゃあ、とっとと行って瀬戸さんの無実を証明してあげようよ」
「うん」
ささくれ立ちそうな心を隠すために、私はわざと元気よくトントンと弾むように階段を降りていった。
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