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尋問
瀬戸さんが陽向に呼び出されると、瀬戸さんの友達らしい女の子たちがキャアキャアと騒いだ。
「やったね、里依紗」
「すごい、頑張って!」
そんな言葉がわずかに聞こえる。なんだかここだけ女子校になったみたい。
「それで、お話って……」
笑顔で言いかけた瀬戸さんが、初めて私に気がついてフリーズした。私は陽向の後ろにいたからすっぽりと隠れて見えなかったんだろう。
楽しい気分に水をさしてなんだかごめんなさい。
「えーと、なんだっけ」
陽向も急にポンコツになって私を見る。
多分、質問したいことをまとめずに勢いで来てしまったんだろう。
やれやれ。
仕方がないので私は前に出た。
「初めまして、瀬戸さん。私は陽向の地味な幼なじみで、景山昴と言います。陽向から相談を受けて、あなたに聞きたいことがあって来ました」
「はあ……」
風船が萎んでいくような声を出した瀬戸さんがゆっくり頷く。
「昨日の夕方、陽向にスポーツドリンクの差し入れをしましたよね。その時、何かおかしなことをしませんでしたか?」
私の質問に、瀬戸さんは明らかに動揺の色を見せた。
「あ、いえ、それは、その……なんでもないんです!」
「蓋の開いたペットボトルを陽向に渡したそうですが、何故それを陽向に?」
「それは、たまたま開けたタイミングで先輩に会ったので」
「体育館の前で、あなたのことを目撃していた人がいます」
「えっ」
瀬戸さんが息を呑むのを私は見逃さなかった。
「その人は、瀬戸さんがペットボトルの蓋を開けた後、それをしばらく握っていたのを見たと言っています」
瀬戸さんの目が可哀想なくらいキョロキョロと動く。
「それは……」
「瀬戸」
陽向が前に出て、瀬戸さんを真っ直ぐに見つめた。
「なんでそんなことをしたのか、教えてくれ。俺はお前のことを信じたい。変なこと企んでないんだったら、正直に言って欲しいんだよ」
「陽向先輩……」
陽向の目はキラキラに輝いているように見えた。信じているという言葉がそのまま光になって陽向の目から放射されているみたいだった。
こんなに澄んだ眼差しで見つめられたら、少しでも心に後ろ暗いことがある人間はたちまち焼け焦げてしまうに違いない。
瀬戸さんもどうやらその例に漏れなかったようだ。
「あの……アタシ……っ。ごめんなさい!!」
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