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バカみたい
「昴、昨日何で先に帰ったの?」
翌日の朝、陽向が私の家の前にいた。私はわざと陽向の顔を見ないようにしていたから、彼の表情は分からなかった。
「新しいゲーム貸してくれるって言ってたから待ってたのに」
「ごめん。忘れてた」
防御魔法が続いている。大丈夫。普通に話せる。
陽向の顔を見ないようにしていれば、大丈夫。
私は自分に言い聞かせて歩き出した。
「どうせ陽向はこれからバスケの練習で忙しくてゲームやる暇なんてないでしょ。だからもう貸し借りするのやめようかなって思って」
「えーっ。つまんないよ」
「ゲームより楽しいことは他にあるでしょ」
「なんか、うちの母ちゃんみたいなこと言ってんなあ」
呑気な陽向には私の皮肉が効かない。はっきり言わないと、陽向には伝わらない。
「ねえ、もうこうやって迎えに来たり、一緒に帰ったりするのやめてくれない? いい加減ウザい」
「は? どしたの急に」
「陽向の面倒を見るの、疲れたの。もうあんまり話しかけないで」
精一杯の拒絶を示して、私は陽向から離れた。
これで良かったんだよね。
いつまでも子供みたいに仲良しこよししていたって、幸福な未来はないんだから。
傷の浅い今のうちに蓋をして何が悪いの。
もう、疲れたんだよ。
陽向と一緒にいるの、疲れた。
私だけがこんなに好きで、バカみたい。
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