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子どもの頃の話
私が陽向の頼れるヒーローでいたのは、ほんの小さな子どもの頃までだった。
同じ幼稚園に通い始めて、お互いに近所の家の子だって認識し始めた頃。
その時、陽向はまだこんなに身長が大きくなかったし、何なら私の方が大きかったし、色も白くて可愛い、まるで女の子みたいな男の子だった。
そして、呆れるくらいバカだった。
「ねえねえ、すばるちゃん」
「なに?」
「そらからふってくるあめってなんであまくないの?」
「は? べつのものだからにきまってるでしょ」
私が言うと、陽向は「へーっ!」と目をキラキラさせた。
「すばるちゃん、あたまいい! かっこいい!」
「やめてよ、はずかしい」
「すばるちゃんはなんですばるっていうなまえなの?」
「すばるはおうしざにあるほしのあつまりなんだって。わたし、ごがつうまれでおうしざだから」
「ぼくはさんがつ!」
「うん、きいてない。いま、わたしのなまえのはなししてたよね」
「だからひなたのひなはひなまつりのひな。さんがつうまれだから!」
「あ、うん、そうなんだ? おとこのこなのにひなまつりなんだ?」
「ぼく、ひなあられがすき。すばるちゃんは?」
「え、きいてないけど。でもわたしもひなあられはすき」
「ぼくたち、にたものどうしだね!」
「えっ。それはどうかなあ?」
なんだか心配になる可愛さと頭の弱さを感じ、私は勝手に陽向を守ろうと心に誓った。
「わたしのほうがひなたよりはやくうまれてるから、ひなたのおねえさんになってあげる。こまったことがあったらたすけてあげるからね」
「うん! じゃあぼくはおにいさんになる!」
「ちょっとまって。それじゃ、『お○あさんといっしょ』のうたのおにいさんとおねえさんみたいだから。そこは、おねえさんとおとうとでしょ」
「うん。でも、うたはへただからたいそうのおにいさんのほうがいい」
「いや、そのおにいさんたちのはなしはどうでもいいよね。そこまようところじゃないよね」
「わかった! じゃあまよわずたいそうのおにいさんにする!」
「あ……そう。もういいや」
陽向は困ったように首を傾けた。
陽向が困ったら助けてあげるっていう約束はあの頃からうまく果たせていないけど、とにかく陽向が最初に悩みを打ち明ける相手は私になった。
だから──今でもきっとその延長線上にいるだけ。
いつまでも変わっていない陽向が、嬉しくて、ちょっと憎らしい。
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