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黒い感情
◇
あれから間もなく陽向と彼女が付き合っているっていう噂が流れた。二人はそれを否定する訳でも隠そうとする訳でもなく、堂々と仲良く話している姿を周囲に見せていた。
ただ中学を卒業してからは自然消滅したようで、陽向はバスケ一筋に邁進するようになっていた。
いつ別れたのかははっきりと本人から聞いたことはない。すべては風の噂だ。
三年の月日を経て、私の防御魔法は完璧に近くなっていたはずだった。
陽向に新しい彼女が出来ようと、きっと平気で受け入れることができるって、そう思っていた。
でも、あの人は別だ。
あの人は私と陽向の思い出をただの物質に変えた人だ。あの時の身を切るような痛みはまだ胸の奥に残っている。
その彼女が陽向の親友の千秋琉星くんにいつの間にか鞍替えしていたことがいま分かった。
しかも、昨日の放課後、寝ている陽向にキスをした犯人も彼女かもしれない。
どうしてなんだろう。
どうして、また陽向に近づくの?
あんなに素敵な琉星くんを傷つけてまで、どうして。
封印していた黒い感情が私の防御魔法を内側から破ろうとしている。
目の前が暗くなっていく。
そして、昨日の光景がフラッシュバックした。
「陽向」
「ああ、もうどうしたらいいんだよっ」
陽向は頭をくしゃっと掻き撫でた。
「琉星のやつ、絶対なんか勘違いしてる! やっぱ俺、もう一度誤解だって言ってくる!」
「待って、陽向!」
私は陽向の腕を掴んで止めた。
「……それ、誤解じゃないかもしれない」
「どういうこと?」
私は勇気を出して、顔を上げた。
「私、陽向に一つだけ黙っていたことがあるの」
「えっ?」
陽向のキョトンとした顔を懸命に見つめながら、私は言った。
「実は私……昨日の夕方、犯人を見たの」
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