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すれ違いの理由
「何でも言うことを聞くっていうか、あいつは聞き分けが良すぎるんだよな」
アイスを食べながら琉星くんがボソボソと話し出す。
「インターハイの予選が始まるまでは、部活のない日によく待ち合わせて一緒に帰ったりしてた。誰かに見られたくないから、帰り道とは全然違う方向にあるカフェとかで待っていてもらったりしてさ。そもそも、誰かに見られたくないとか彼女がいること隠したがる男なんて普通は嫌じゃないかと思うんだけど、あいつは何も反対しないんだ。全部俺のわがまま受け止めて、言いたいことを我慢してるって感じでさ。それでいいのか? ってずっと俺は思ってた」
なんだか、中学の頃のひかりさんと印象がだいぶ違う。
ひかりさんは陽向といる時、何も我慢しないで甘えまくっていた気がするけど。
「ギクシャクし始めたのはインターハイの予選の後だ。部活がない日も自主練したいから、もう俺のことは待たずに先に帰ってくれって言ったら、嫌だって急にあいつが怒り始めてさ」
「そりゃそうだろ。会える時間がなくなっちゃうんだから」
陽向が頬を膨らませる。
「お前、わがまますぎるぞ! 誰かに見られたくないから存在秘密にさせるとか、自分が忙しくなったら邪魔扱いとか、どんだけひかりを都合良く扱ってんだよ。全部お前が悪い!」
確かに、ちょっとひどいかも。
そう思った時だった。
「じゃあ、帰りがどんなに遅くなっても一人で待ってろって言うのかよ。変な奴に目をつけられて、危ない目に遭うかもしれねえだろうが。俺はあいつにもっと自分のことを考えて欲しかったんだよ。俺のことなんかより、自分を大事にしてほしいって──」
あれっと思った。
チラッと振り返って見ると、琉星くんが赤くなっている。
その顔に「ひかりが心配です」と落書きでもされているみたいだった。
もしかして、冷たい人かと思いきやただのツンデレだった?
この話も実はノロケ話?
鈍感な陽向も、琉星くんの表情の変化にはさすがにピンと来たようだった。
「そっか。それでお前、最近集中力がなかったんだな? 調子悪いとか言ってたけど、本当はひかりが心配でバスケどころじゃなかったんだ!」
「ちげえよ! あいつのせいじゃなくて、俺が未熟なだけ! あいつは何も悪くねえし」
「なーんだ、おまえらちゃんと両思いしてんじゃん。心配して損した」
陽向が呑気に笑った時だった。
「……そんなことねえよ」
琉星くんのトーンが下がった。
「あいつはきっと、俺よりお前のことが好きなんだと思う」
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