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言ってはいけない
私は陽向の背中越しに琉星くんの横顔を見た。
「……お前らが中学時代に付き合っていたことは知ってる。お前らの同中だった奴に聞いた」
「それは、違う──」
「いいよ。ごまかさなくても。別にショックでもねえし」
琉星くんはそう言ったけど、私には彼の目が暗い光を放っているように見えた。
陽向たちが付き合っていたこと、琉星くんは知らなかったんだ。これは絶対ショックだったに違いない。
「それ知って、いろいろ腑に落ちたよ。ひかりのやつ、お前の話をすると嬉しそうに聞くし、自分からもお前の話題をよく出してたなって。俺たちの共通のダチが陽向しかいないからだって思っていたけど、それ以上の気持ちがひかりにはあったのかなって」
「ひかりと何かあったの?」
「……一昨日の夕方、喧嘩した」
一昨日といえば、事件の前日だ。
もしかしたら、その喧嘩が事件のきっかけを作ったかもしれない。
「どんな喧嘩?」
陽向も前のめりになった。
「一昨日の夕方、練習が始まる前にひかりを呼び出したんだ。今日も遅くなるから、今日こそ先に帰ってくれって。っていうか、もう俺のことはずっと待たなくていいからって言った。そうしたら──あいつが急に泣き出してさ。そんなにバスケばっかりしてるのは、私と一緒にいたくないから? なんてバカなこと言うから……」
「もちろん、そんなわけないって言ったよな?」
「心の中で、言ったかも」
「おい! それじゃひかりが泣くのも無理ないだろ!」
怒鳴った陽向を、琉星くんが睨み返した。
「それはあいつが、謝ろうとした俺に向かって『陽向はもっと私に優しくしてくれたのに』なんて当てつけみたいなことを言ったから──だから、つい」
「つい?」
「そんなに陽向の方がいいなら、ヨリを戻せば? って言っちまった」
「はあ⁉︎」
うわあ、それは痛い。
彼氏から元彼とヨリを戻せなんて言われたら、プッツンと切れてしまっても致し方ないかも。
でも、琉星くんも相当傷ついたんだと思う。
元彼の方が良かったって言葉は、男のプライドがズタズタだよね……。
しかも琉星くんはバスケでも陽向にスタメンを奪われた。
時系列的にはひかりさんとのケンカが先だけど、選手としても男としてもずっとライバルで意識していた相手と比べられるのは嫌だよね。
言ってはいけない一言を言ってしまったひかりさんと、それを言わせた琉星くん。
いったいどっちが悪いんだろう。
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