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復讐計画
「復讐?」
それはどういう意味なのだろうか。
眠った陽向にキスをしたことが復讐といえば復讐だろうけど、彼女は琉星くんにマフィンを食べさせたかったようだ。
彼女の本当の計画はどういうものだったのだろうか。
「なんで琉星にマフィンを食べさせることが復讐になるんだ?」
陽向も首を傾げながら尋ねた。
「琉星くんは最近、朝も夜もずっとバスケのことしか考えていなかった。体調が悪くなっていても全然休もうとしなかった。そんな琉星くんから、私は奪い取りたかったの」
「何を?」
「……大好きなバスケをしている時間を」
「俺からバスケの時間を奪う……?」
琉星くんが不思議そうに繰り返した。
「そう。だから眠くなるマフィンを作って、部活の前に食べさせようとしたの。眠気で動けなくなったら、部活には行けなくなるでしょ?」
「でも、お前は手紙で『部活の後に食べて』って書いたよな」
琉星くんがさっきのルーズリーフを再び取り出して広げる。
字を確認すると、やっぱりそこにはこう書かれていた。
『作りすぎちゃったからあげる。もし良かったら部活の後で食べてね』
「部活の後に食べたら復讐の意味がないのに──なんでこんなことを」
「……うん。バカだよね、私」
ひかりさんは溢れそうになった涙をそっと指で拭った。
「琉星くんの仕打ちに怒って、泣いて、絶対に困らせてやるって思っていたのに……ギリギリになって、やっぱり琉星くんのことが可哀想になってきちゃったの。それで……手紙の文字を書き直した。琉星くんが今までどんなに頑張ってきたか間近で見てきたから……」
琉星くんは無言でひかりさんを見つめていた。
でもその瞳にはあたたかいものが満ちているのを感じた。
睡眠薬を入れたのはひかりさん。
その理由は、琉星くんからバスケの時間を奪うため。
でも、彼女は復讐を思いとどまった。
それらは陽向とは全く関係がなかったことが、ようやく分かった。
けれども、問題はこの後だ。
「ひかり、お前は昨日の夕方、ここに来たよな? それは、琉星が眠っていると思っていたから?」
陽向の問いに、ひかりさんがゆっくりと顔をあげ、小さく頷いた。
「その時、お前は何をした……?」
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