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見えない容疑者
「……しょうがないな。一応、話だけは聞いてあげる」
「本当? やった!」
「だから、手を離して!」
もうすぐ高校に着いてしまう。同じ制服を見かけるたびに、私の心臓は緊張で押しつぶされそうになっていた。
「犯人に心当たりはないの?」
「うーん」
陽向は私の腕を掴んでいた手で、自分の顎をつまんだ。けれども、たいして設けなかったシンキングタイムも結局は無駄になる。
「さっぱり分からない!」
「さっぱり分からないじゃ困るでしょ。何とか絞り出してくれないと」
「だって本当に分かんないんだ」
自分に好意を持っている人間が分からないなんて、と本来なら呆れるところだが、陽向の場合はちょっと違っていた。
陽向が所属しているうちの高校の男子バスケ部は、今年初めてインターハイ出場を決めたばかりで注目度が高く、予選に出場したメンバーは全員アイドル並みに人気が高まっていたのだ。
その中でも陽向は特に愛想が良く、男女問わず全方向からウケがいい。バカなのに、恐い先生たちにまで好かれている。誰に狙われていても不思議じゃないかもしれない。
「それじゃあ、とりあえず近い人間から疑おう。クラスメートで仲がいいのは?」
「……みんな?」
「部活関係で仲がいいのは?」
「……みんな」
「うん、もういい。陽向に聞いたのが間違いだった」
私は深いため息をついた。
「それじゃあ、昨日、いつもと何か違ったことがなかった?」
「そういえば……ちょっとおかしなことがあってさ」
陽向が珍しく真面目な顔つきでつぶやいた。
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