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真相
いよいよ本当のことが分かる。
私はドキドキしながらひかりさんを見つめた。
ひかりさんは目を伏せ、また静かに語り出した。
「私は昨日の放課後、いつものお店にいた。もしかしたら琉星くんがマフィンを食べずに私に会いに来るかもしれないっていう選択肢があると思っていたから。でもそんなことはやっぱりなくて、いつも迎えにきてくれる時間になっても琉星くんは来なかった」
「ひかりは俺のことをもう待っていないと思っていたんだ」
琉星くんが言葉を挟む。
ひかりさんはそっと微笑んだ。
「うん。分かってる。来てくれると期待したのは私の勝手な願望だから」
寂しそうな笑顔だ。
ひかりさんはずっと琉星くんに片思いをしていたのかもしれない。
付き合っていたはずなのに、そんな実感を持てないでいたのは、琉星くんという人が本心を打ち明けるのが苦手な人だったから。
本当はお互いのことが大好きなはずなのに。
「私に会いに来ないのは琉星くんの意思じゃなくて、きっとマフィンを食べて眠っちゃったんだって思ったの。……思い込もうとした、っていう方が近いかな。それで学校に戻ってみたの」
彼女がやってきた時、部室はすでに薄暗かった。
ホワイトボードの文字が目を凝らさないとよく見えないくらいには暗かった。
そこに、誰かが寝ていた。
それは。
「陽向だった」
ひかりさんははっきりとそう言った。
彼女は見間違えていたわけじゃなかったのだ。
「どうして琉星くんが寝ているはずなのに、陽向がいるんだろう。すぐには理解できなくて、陽向の顔を近くで眺めていたら……そのうちに気づいたの。琉星くんは私が作ったマフィンを食べてさえいなかったんだって……」
ひかりさんはついに両手で顔を覆って泣き出した。
私たちは言葉を失い、ただ彼女を見つめた。
「そこに寝ているのは琉星くんだったはずなのに。私は琉星くんに会いたかったのに。琉星くんは私からのプレゼントを、そのまま陽向にあげていたの。また『いらない』って言われたような気がした。マフィンも、私自身も……」
静まる部室内にひかりさんの嗚咽が広がっていく。
「だから……お前は俺への復讐のために、陽向にキスを……?」
琉星くんが硬い表情でつぶやく。
「それともやっぱり、俺より陽向の方がいいって──」
「違うよ」
私は思わず琉星くんの言葉を遮った。
みんなの注目が私に集まる。
こういうことには慣れていないけど、どうしてなのか言葉が止まらなかった。
「まだ分からないの? 琉星くん。ひかりさんはさっきからずっと、琉星くんのことしか言ってないのに」
私はなんていう勘違いをしていたんだろう。
今のひかりさんを見て、はっきりと分かったことがある。
ひかりさんにはきっと、琉星くんしか見えていなかったんだ。
陽向なんて目に映らないくらい、琉星くんのことが好きだったんだ。
そんなひかりさんが陽向に一瞬でも浮気したとは思えない。
「ひかりさんは、陽向にキスなんかしていない……そうですよね?」
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