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扉の外へ
「困ったのはその後だよ。俺とひかりが付き合っているって変な噂が流れたんだ。琉星のことでコソコソ話してたからかな。ひかりは俺じゃなくて琉星と付き合ってるんだってハッキリ言いたかったけど、言いふらすなって二人から止められてさ。完全否定できなくて、ますます怪しまれることになったんだ」
「そんな話……知らなかった」
私が言うと、陽向はチラッと私を見た。
「話しかけないでって逃げていく奴に、どうやったら教えられるんだよ」
陽向の言う通りだ。
あの頃の私は頑なで、陽向の話をまともに聞こうとしなかった。
もし聞いていたとしても、それを素直に信じられたかどうか怪しい。
こうして目の前で琉星くんという人を見て、ひかりさんの気持ちを知って、初めてここまでたどり着けたのだ。
もっと早く知る方法はあったはずなのに。
陽向は私にふと優しい笑みを投げた後、琉星くんに視線を向けた。
「これで分かっただろ、琉星。ひかりは最初からお前のことしか見てなかったんだ。それで、お前はどうする?」
琉星くんの瞳が一瞬陽向を捉えたあと、ひかりさんへと移る。
「……ごめん」
琉星くんの切ない眼差しにひかりさんは息を呑んだ。
「俺、本当はずっと……自分に自信がなかったんだ。俺より陽向の方が全然いい奴だし、素直で、明るくて、かっけえなって。だからせめてバスケではあいつに勝ちたいって思い続けてた。そうすれば……お前と一緒にいても許されるような気がして」
「うん」
涙を溜めたひかりさんの瞳がゆっくりと微笑む。
「ひどいことを言って傷つけて……ごめん」
「ううん」
ひかりさんは嬉しそうに首を振る。
「それでも私は、そんな不器用な琉星くんがずっと好きだったよ。今までも、これからも」
「……ダサ」
自虐するように笑った琉星くんの瞳の端が一瞬光ったように見えて、私はドキッとした。
「陽向。悪いけど、お前ら出てってくんない?」
「は? 何だよまた勝手なこと言って」
「いいじゃん、行こう」
私は口を尖らせている陽向の腕を掴んで引っ張った。
すると。
「陽向」
琉星くんが出て行こうとした陽向を呼び止めた。
振り向くと、彼は私が初めて見る柔らかい笑みを浮かべていた。
「……サンキュ」
「おう」
陽向は嬉しそうに手を挙げて、そっと部室のドアを閉めた。
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