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鍵を握る女
別棟の廊下に出た途端、私の口から熱いため息が漏れた。
胸の奥が苦しみを覚えるほどキュンと締めつけられている。さっきの琉星くんとひかりさんの告白が震えるほど素敵だったからなのか。
──良かった。
まさかこんな気持ちでこのドアを出ることになるとは思っていなかった。
「良かったね、琉星くんとひかりさん。仲直りできて」
私の言葉に、陽向は白い歯を見せて笑った。
「だから言ったじゃん。あの二人は大丈夫なんだって! 俺は中学時代にさんざんひかりから琉星のノロケ話を聞かされてきたんだぞ? あのひかりが浮気なんてするわけない、ない」
「そっか。だから中学卒業してからは陽向とひかりさんが噂にならなくなったんだね。もともと付き合っていた琉星くんが同じ高校に入ってきたから」
「今さらそんなこと言ってんの? 昴も意外と鈍いのな」
見上げる陽向の横顔はいつもと同じなのに、なんだか不思議な感じがする。
陽向がひかりさんと付き合っていなかったなんて。
事実だと思い込んでいたことがただの誤解だったことに、まだ脳が追いついていない。
心が浮かれてふわふわと飛んでいきそうだけど、あんまり飛び上がりすぎるのも怖いような気がする。
それに、問題はまだ解決しきってはいない。
「結局、陽向にキスをした犯人は分からなくなっちゃったね」
絶対に黒だと思っていたひかりさんが白だった。
これで捜査は振り出しに戻ったことになる。
ところが、首を傾げていた私に陽向は言った。
「いや……これで全部繋がったよ」
何かの冗談だろうか。
一瞬そう思ったけど、陽向は笑っていない。
「繋がったって、何が? 犯人が分かったの?」
「まあな。やっぱり鍵を握っていたのは5人目の女だった」
「は……? 何言ってるの。5人目はひかりさんでしょ?」
美村先生、瀬戸さん、氷崎先輩、琉星くん、ひかりさんでちょうど5人ではないか。
私が言うと、陽向は不満そうに頬を膨らませた。
「ひかりを疑ってたのは昴や琉星だろ? たしかにひかりは関係者ではあったけど、俺は最初から1ミリも疑ってなかったの。だから容疑者の5人の中には、ひかりは元々入ってなかったんだよ」
「えっ? じゃあ、他に誰が?」
「今までのことを思い出してみるとさ──明らかに嘘をついてる人間が二人いるんだ」
嘘をついている人間がいる? それも、二人?
誰だろう。全然分からない。
「誰のことを言ってるの?」
その時、六時間目の授業が始まるチャイムが鳴った。
「続きは放課後だな。じゃあ、また例の秘密基地で」
陽向はからかうように笑って、戸惑う私の一歩前を歩き出した。
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