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嘘つき
放課後になった。
六時間目の授業も私の記憶にはほとんど残っていない。本格的にテストがヤバいけど、勉強は後で頑張れば追いつくことができる。
それよりも事件だ。
陽向が言っていた鍵を握る5人目の女と、嘘をついている二人の人間とは誰なのか。
四時間目に書いた事件のまとめノートをもう一度ひっぱり出して考えてみたけど、今までの容疑者で嘘をついているような人間は見当たらない。彼らじゃないとしたら、陽向は誰が嘘つきだと言いたいんだろう。
……もしかして。
背中に浮かんだ汗が滑る。
嘘つきといえば、私が一番嘘つきだ。
陽向には今までいくつも嘘をついてきた。
好きだっていう気持ちを陽向に隠すためとか、自分を騙すための嘘。事件に直接関わっている嘘もある。
でも、これだけは真実だ。
私は、陽向にキスをしていない。
それだけは神に誓って言える。
それに、陽向が私の嘘を見破ったのだとしても、さらにもう一人嘘をついている人がいるという。それは誰のどんな嘘なんだろう。
考えが堂々巡りしたまま、私は秘密基地へと向かった。
まだ真昼のように明るい日差しが、埃だらけの窓から差し込んでくる。
その光を後背にして、陽向が私を待っていた。
「……よっ」
陽向のちょっとぎこちない笑顔に、私はドキドキしながら近づいた。
「早く答え合わせして」
「そう焦るなよ。時間はたっぷりあるから」
「こっちはもう待ちくたびれてるの。さっさと話してよ」
三年前の真実を知ったのに、まだ意地を張り続けていた癖が直らない。
可愛くないのは分かっている。多分、もう直らないんだろうという気がしている。
これが私、景山昴だ。
陽向はそんな私にひだまりのような眼差しを向けながら、静かに語り出した。
「……最初の違和感は、瀬戸の話を聞いた後だった」
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