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違和感
「瀬戸さんの?」
意外な名前に驚いて、私は思わず聞き返した。
「瀬戸さんの話の、どこが?」
「ほら、瀬戸がペットボトルに何をしていたのか、昴が聞いて来てくれただろ? その答えは『陽向がインターハイのスタメンに決まったから、いっぱい活躍ができますようにって願掛けしてくれていた』だった」
「……うん」
私は慎重に頷く。
そう、私はこの時、確かに嘘をついた。
それは、瀬戸さんが陽向を好きだって念じていたことがバレないようにするための嘘。彼女のためについた嘘だった。
なんだ、そんなことか。内心、ちょっとホッとした。
多少強引な嘘だったから違和感を与えてしまったかもしれないけど、事件の真相とは関係がない嘘だから、見破られたとしても問題ない。
「それの、どこがおかしいの? 陽向の活躍を願ってくれたことが変?」
「そうじゃないよ」
あくまで穏やかに陽向が首を振る。
「俺がおかしいと思ったのは、俺がスタメンになったことを瀬戸はいつ誰から聞いたのかってこと」
「え?」
「だって、スタメンは昨日の部活が始まった直後、男子バスケ部の部室のホワイトボードに書かれながら発表されたから。それを知っていたのはその場にいた男子バスケ部員と、事前に監督から相談されていた女子マネの氷崎先輩だけだったんだ」
私はすぐに、しまった、と思った。
昨日スタメンが発表されたと氷崎先輩から聞いた時から、なんとなくまずいことをしたと思っていたのだ。
でも、男子バスケ部員と氷崎先輩しか知らない情報を女子バスケ部の瀬戸さんが知ったタイミングなんて、細かいところを陽向が気にするとは思わなかった。
どうして陽向はそんなことを気にしたんだろう。
頭の中で思考がグルグルと目まぐるしく回転する。
「別に箝口令が敷かれていたわけでもないんでしょ? 体育館で部活している時に男子バスケ部の誰かから聞いたのかも」
「俺もそう思って、さっき昼休みで一人になった時に瀬戸に聞きに行ったんだ」
私が氷崎先輩と二人で話をしている時のことだ。
あの時、陽向は瀬戸さんのところへ──。
「俺がスタメンに選ばれたことをいつ知った? って聞いたら瀬戸は驚いた顔して、『今初めてです、おめでとうございます!』って言ってたよ」
下手な嘘はつくものじゃない。
誰かのためについた嘘が、いつか自分の首を絞めることになる。
「瀬戸が何も知らなかったってことは──スタメンのことを知っていたのは瀬戸じゃなくて、昴だったんだよな」
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