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タオルの行方
陽向の緊張感が私を包む。それとも私の緊張感が陽向に伝わっているのか。
空気が重く、呼吸が浅くなってくる。
うまくごまかせるだろうか。
私がどうやってそれを知ったのか、陽向はもう気づいているのだろうか。
「どうして昴は、俺がスタメンになっていたことを知っていたんだ? 瀬戸に話を聞きに行った時点では、誰もそんな話をしていなかったはずなのに。バスケ部の誰かに聞いた? それも無理だよな。今朝からずっと休み時間中は俺と一緒だったんだから、誰かと話す時間はない。そもそも昴はバスケ部とは何の繋がりもないんだから、教えてくれる奴もいない。あのホワイトボードを見る以外、俺がスタメンになったことを昴が知るチャンスはないんだ。じゃあ昴はいつあれを見たんだ? ……そう考えた時、ふと思い出したんだ」
「……何を?」
「ずっと行方不明だったタオルのことだよ」
……ダメだ。気づかれている。
私は思わず目を瞑った。
「昴は昨日の朝、タオルを俺の母ちゃんから受け取って、すぐに部室に置いてきたって言った。つまり、部室に入ったのは朝だって言っていた。でもその時はまだスタメンの名前はホワイトボードに書かれていなかったはずなんだ。だから──」
陽向が言葉を溜めたから、私はおそるおそる目を開けて彼を見上げた。
陽向は夕陽に染まった美しい瞳で、影の中に立ち尽くす私を見つめ返した。
「そこに嘘がある。昴が部室に入ったのは朝じゃなくて夕方だ。タオルは最初から盗まれてなんかいない。お前が放課後までずっと持っていたんだ。そして、それを置きに来るために夕方部室にやってきて、スタメンのことを知った。……そうだよな? 昴」
信じられないな。
陽向はいつからこんなに頭が良くなったんだろう。
目の前にいるのが本当に陽向なのか、疑いたくなる。
「どこにそんな証拠が……?」
「タオルには持ち主の残り香がついていた。ついさっきまで抱きしめていたって感じの真新しい匂いが」
陽向の瞳がじっと私を見つめている。
「体育館倉庫でお前を抱き上げた時、偶然お前の匂いを嗅いだ。それで分かったんだ。タオルはずっとお前が持っていたんだって」
そうか。だからあの時、陽向はずっと真面目な顔をしていたんだ。
ここまで完璧に気づかれてしまっては言い訳もできない。
私は押し殺していた息をそっと吐いた。
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