第四章(3)…… 同じものにはなれない

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 おそらく霊の影響を受けやすい自分の体質が、窮地に陥る原因となった。そうグレはそう告げている。 「それは……オレには梶山みたいな、霊に対する防衛力みたいなもんがないからってこと?」 「ご友人のような強大なものを持つ生者は、非常に珍しいですが」とグレが答えた。 「姐さんがいれば大抵の危険は避けて通れるが、言葉も通じない凶悪な霊はそうもいかない。気まぐれのように好奇を向けることもあり得る。あれほどのものには滅多に出くわさないが、それでも絶対にないとは言い切れんでしてね」  修哉を見下ろしていたグレが、眉を寄せる。 「兄さんは、常に危ない状態にあるということです」 「それは……前々からわかってはいるけど、特に今回はよくないって言いたいんですか」 「そのとおりです。あの憑き物を相手にしては分が悪い」  あの異形の肉塊と化した霊は、こちらに関心を示した。気まぐれならまだしも、なにか狙いがあれば非常にまずい。次回も同様、もしくはそれ以上の事態が起こり得るからだ。  オレには太刀打ちできないって言うのか。わかってはいるが、面と向かって指摘されるといらだつ。なんだよふざけんなよ、と内心で呪詛を吐いて、大きく息をつく。 「土地縛りは、生者にちょっかいかけるのが仕事みたいなものです。追い払わればそれまでで、個人に執着して後引くような事態はまず起こり得ません。また、人憑きは無視し合うもので、まず関わり合いはしない。だからあれほど規格外の憑き物は我々も未経験で、対応のしように困るというのが正直な感想です」 「それじゃ、アレに近づかないほうがいいって言うんですか」 「そういうことになりますか」 「無理に関わらなきゃいいんだろうけど、でも……」  そうもいかない、と言いたい。だが、グレの真顔を見ては言えなかった。  アカネやグレに守ってもらえたとしても、須藤務に憑いてる化け物を撃退できなければなにもはじまらない。  修哉は目線を落とした。最悪、命を落とす可能性まであると知りながら、自ら危険に飛び込むなんて馬鹿げている。 「兄さんはどうしたいとお考えですか」 「須藤務と話がしたいんだ、オレは」  脳裏で、肉塊の化け物の姿が明瞭に甦る。焦れる思いが、まるで胸の内で煮えるように感じる。 「だけど……、現時点では手詰まりなんですね」  修哉が確認すると、はい、とグレは頷いた。
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