第四章(3)…… 同じものにはなれない

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「ですが」と、グレが響きの良い低音をさらに下げて、力をこめた言葉を放つ。 「私が一肌脱ぎます」 「そうは言っても……なにができるんですか、グレさん、あんまり力が使えないはずじゃ」 「お気遣いは無用です」  肉のついた顔をくしゃりと寄せて、まるきり毒気のない笑顔を見せる。そして、グレはばつが悪そうに片手を頭の後ろへとやった。 「さっきは、あの場を凌げばなんとかなると思って控えましたが、まだ務めを果たすだけの余力は残してありますから」  そして真顔に戻ると、居住まいを正して言った。 「私ははじめからそのつもりでおりました。自分の存在と引き換えに一矢報えれば本望です」 「一体、どうするつもりです?」  グレが修哉の足元に片膝立ちでひざまづく。巨体を前のめりにし、深く頭を下げた。  上目で視線を向けてくる。面構えを不敵な笑みに変える。 「やりかたはいくらでもあります。お任せください」  言葉どおりに受け取っていいものかわからない。本当にできるのかどうか、真実を知るのはグレだけだ。 「グレさん、オレ……須藤の部屋に入ってみて、ひとつ気になったことがあるんです」 「どうかしましたか」 「あのアパートの部屋、ものがなくて……覚悟を感じるというか、厭な気配がありました」 「なにか、気にかかる点でもありましたか」 「わかんないけど……あれは精神状態がヤバそうなんじゃないかって」 「それには同意しますね。ああいうのは自滅を選ぶ可能性が高い」 「自滅――」  グレの言葉が引っかかる。「グレさんも、奴には関わらずに放っておいたほうがいいと考えてるんですか」  グレは真面目な顔で、さあ、と首を傾げた。 「それは私が決めることではありませんよ」  決して、こうしたほうがいい、と意見してこない。決断は他人に決めてもらうものではない。自身で下さねば意味がない。 「オレは須藤がどうしてあんなことをしたのか、本人の口から理由を聞きたい」  たくさんの人死にが須藤務のまわりで起こって、どんなことを考えて、どんなふうに生きてきたのかを知りたいと思った。 「あれだけ凶悪な怨霊に取り憑かれてるんだ、あいつがアレに取り殺されれば終わりになるかもしれない。自業自得だし、いい気味だとも思う」  悪霊と相対するときの、あのひどくおぞましい時間を思い返すだけで逃げ出したくなる。なのにどうしても後に引けない。
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